本館完全復活から2年、熱気渦巻く湯の街へ――2026年版「湯上がり美食」の現在地
道後 温泉 食べ 歩きの風景が、劇的な変化を遂げている。保存修理工事を終えて完全な姿を取り戻した道後温泉本館。その堂々たる木造三層楼を背に、浴衣姿の旅人たちがハイカラ通りへと吸い込まれていく。石畳の小路に立ち込める香ばしい醤油の匂いと、弾ける柑橘の芳香。数年前の静けさが嘘のように、いま松山の奥座敷は、五感を刺激するテイクアウトグルメの実験場と化している。
午後3時の鐘が鳴る頃、アーケード内には早くも湯煙ならぬ熱気が満ちていた。観光案内所の手前では、そぞろ歩きを楽しむカップルが焼きたての湯玉焼きを頬張りながら笑い合う。もはや単なる観光地の買い食いではない。旅慣れた若者から舌の肥えたシニア層までを唸らせる道後 温泉 食べ 歩きは、愛媛の滋味を掌サイズに凝縮したカルチャーへと昇華していた。
湯煙の向こうで弾ける「揚げたて」の洗礼――じゃこ天とクラフトビールの共犯関係
温泉街の食体験において、揚げたての音に勝るプロローグはない。通りの中程に位置する老舗の軒先では、注文が入るごとにすり身がパチパチと油の海へ滑り込む。宇和海で獲れた新鮮なホタルジャコを骨ごとすり潰したじゃこ天だ。
薄灰色の無骨な見た目。だが、ひと口かじれば表情は一変する。ジャリッとした野性味あふれる歯ざわりの直後に押し寄せる、濃厚な魚の旨みと塩気。これに合わせるべきは、道後麦酒館が注ぐ冷えた一杯だ。フルーティーな香りのケルシュが、魚脂の余韻をすっきりと洗い流す。昼下がりの贅沢とは、まさにこの数分間の往復運動を指すのだろう。
進化形みかんスイーツが席巻、柑橘王国が魅せる酸味のグラデーション
愛媛といえば柑橘だが、2026年の道後はその見せ方が極めてクレバーだ。「ただ甘いみかん」の時代はとうに過ぎ去った。いま店頭を飾るのは、品種ごとの酸度と糖度を精密に計算したペアリングスイーツである。
旬の「せとか」や「甘平」を惜しげもなく丸ごと閉じ込めた大福は、手にとるとずっしりと重い。薄皮の羽二重餅を噛み切った瞬間、果汁の洪水が口いっぱいに広がる。白餡の甘さは果実の輪郭を引き立てるためだけに存在し、後味はどこまでも清々しい。さらに隣のスタンドでは、果汁をマイナス温度で瞬時に凍らせたクラッシュジェラートに行列ができていた。温泉で火照った喉に、これ以上の解毒剤は見当たらない。
定番の殻を破る「坊っちゃん団子」の現在地と、老舗が仕掛ける新機軸
夏目漱石の小説に登場して以来、道後の代名詞であり続けた坊っちゃん団子。緑、黄、茶の三色並んだ愛らしい姿は不変だが、食べ歩きのスタイルは確実に進化している。
食べ歩き専用に長めの竹串で仕立てられた一本は、歩行者の手元を汚さない工夫が凝らされている。抹茶餡のほろ苦さ、白餡の上品な舌触り、小豆餡の豊かなコク。老舗和菓子店が新たに打ち出した「生仕立て」の限定バージョンは、求肥の柔らかさが従来の比ではない。口の中で餡と餅が溶け合い、ノスタルジックな風味を残してふわりと消える。伝統を守りながら、テイクアウトという現代のスピード感に寄り添う職人たちの気概がそこにある。
片手で頬張る宇和海――鯛めしが「テイクアウト握り」になった理由
愛媛の郷土料理ツートップの一角、鯛めし。本来なら割烹や料亭で腰を据えていただくべきこの逸品を、街歩きの途中でカジュアルに楽しむ試みが定着した。
炙り真鯛を特製タレに漬け込み、薬味とともに香ばしい焼きおにぎりへと仕立てた一品が熱烈な支持を集めている。表面はおこげのカリッとした食感、中はふっくらとした鯛の身がぎっしり。片手に収まる竹皮の包みから立ち上る出汁の香りが、通り行く人々の足を止めさせる。格式張った座敷を飛び出し、夜風に吹かれながら路上で味わう瀬戸内の海の幸。この気軽さこそが、旅の記憶を鮮烈に刻み込むスパイスになる。
夜風と足湯とレトロプリン:ハイカラ通りに灯る新世代の熱気
日暮れを迎えると、道後の表情はガラリと艶を増す。ガス灯を模した街灯が灯り、そぞろ歩きの人影が影絵のように揺れる中、ひときわ長い列を作るのが新世代のスイーツショップだ。
丸いフォルムの小瓶に詰められた湯上がりプリン。底に沈むビターなカラメル、濃厚なカスタード層、そして最上段には温泉卵を模したトロトロのミルクジュレ。すぐ近くの「放生園」にある足湯に浸かりながら、スプーンですくい上げるひととき。温かい湯に足を委ね、ひんやりと冷たい甘味を味わうコントラストは、一度味わえば病みつきになる。SNSにアップされる写真の向こうには、計算し尽くされた味のレイヤーが存在している。
混雑回避の裏ワザとマナー――2026年の温泉街を心地よく巡るために
国内外からの熱狂的な視線を集める現在の道後だからこそ、スマートな立ち回りを知っておきたい。ピークタイムは夕方の入浴前、午後4時から6時頃に集中する。人混みを避けてゆっくりと店主との会話を楽しみたいなら、午前10時の開店直後、あるいは夕食後の午後8時以降が狙い目だ。
同時に、街全体が美しい景観を保つためのルール作りも進んでいる。食べ歩き用のゴミ箱は各店舗に集約されており、購入した店先で食べ終えるか、指定のリサイクルステーションへ持ち寄るのがこの街の暗黙の作法だ。歴史ある建造物と清らかな空気を守りながら、自慢の味を提供する地元の人々への敬意。それさえポケットに忍ばせておけば、道後の街はどこまでも温かく、滋味深い歓迎の手を差し伸べてくれる。 (出典: 道後 温泉 食べ 歩き(Yahoo!ニュース))