札幌・有明の森に漂う芳醇なカスタード香――なぜ2026年のいま「コッコ テラス」の卵スイーツが熱烈に支持されるのか
コッコ テラスの木製ドアを押し開けると、焼きたてパイ生地の香ばしさと、濃密なバニラの香りが容赦なく鼻腔を突く。札幌中心街から車で南へ約40分。白樺の木々がそよぐ清田区有明の丘陵地帯に佇むこの小さなショップには、平日であっても途切れることなく車が吸い込まれていく。観光客が殺到する都心のデパ地下でもない。駅前の一等地でもない。それでも人々がこの静かな森の入口を目指す理由は、ショーケースの中に並ぶ、眩いばかりの黄金色を見れば一瞬で合点がいく。
「一度ここの味を知ってしまうと、もう他のお菓子には戻れないんですよ」。抱えきれないほどの黄色い小箱を抱えた常連客が、笑みをこぼしながら足早に車へ戻っていく。清田の雄大な自然に囲まれたコッコ テラスは、直営農園である永光農園の平飼い有精卵を贅沢に使い尽くすファームスイーツの拠点だ。食のトレーサビリティやアニマルウェルフェアへの関心がかつてなく高まる2026年、飾らない本物の素材だけを愚直に追求するこの店の姿勢が、目の肥えた甘党たちの心を捉えて離さない。
有精卵のコクが炸裂する、名物エッグタルトの圧倒的な存在感
オーブンから鉄板ごと引き出されたばかりのエッグタルト。表面にはキャラメリゼされた絶妙な焦げ目が走り、揺らすと中心部がかすかに震える。パイ生地は幾重にも折り重なり、口に含んだ瞬間に心地よい破裂音を立てて崩れ落ちる。その直後、舌の上に広がるのは暴力的なまでの卵のコクだ。
砂糖の甘さで誤魔化していない。生クリームの油分で重たくコーティングされているわけでもない。主役はあくまで、黄身そのものが持つ底力だ。舌の上で滑らかに溶けていくフィリングは、濃厚でありながら後味に嫌なベタつきを一切残さない。1個、また1個と無意識に手が伸びる。店頭に並ぶ端からトレーへと移され、午後を待たずに完売の札が立つ光景は、もはやこの店の日常風景となった。
平飼いが生む命の力強さ――永光農園が貫く「鶏ファースト」の現場
この比類なきカスタードの源流を辿ると、店舗の背後に広がる永光農園の鶏舎に行き着く。日本の採卵鶏のほとんどが狭いケージの中で一生を終える現実に対し、ここでは鶏たちが地面を自由に駆け回り、砂浴びをし、日光を浴びて翼を広げている。土を蹴立てる乾いた音と、元気な鳴き声が敷地内に響く。
餌には遺伝子組み換えを行わない穀物をはじめ、北海道産の魚粉や米ぬかなどを独自に配合。ストレスなく育った雌鶏たちが産み落とす卵は、殻を割った瞬間に違いがわかる。白身は二段に盛り上がり、ぷっくりと盛り上がった黄身は楊枝を何本刺しても崩れない。この命の躍動感こそが、焼き菓子の生地を驚くほどふくよかに膨らませ、カスタードに深い陰影を与える秘密だ。
黄色いソフトクリームとシフォン、週末だけの特別な至福
エッグタルトと双璧をなす人気メニューが、淡いレモンイエローに輝くソフトクリームだ。一般的な白いミルクソフトとは一線を画すそのビジュアルは、卵黄を贅沢に練り込んでいる証拠。まるで凍らせた極上カスタードをそのまま味わっているかのような濃密さでありながら、口どけは驚くほど軽やか。初夏から秋にかけての週末、テラス席でこれを頬張る人々の顔には、例外なく至福の色が浮かぶ。
さらに見逃せないのが、ベーキングパウダーを一切使わずに卵白の泡立てだけで焼き上げるシフォンケーキだ。指先で押すと指を押し返してくるほどの弾力。口に入れるとシュワリと儚く溶けて消える。添加物に頼らず、純粋な卵の起泡性だけで勝負する職人の技術が、ここには凝縮されている。
街の喧騒から逃れるドライブ――清田区有明というロケーションの妙
アクセスはお世辞にも便利とは言えない。最寄りの地下鉄駅からバスを乗り継ぐか、自家用車を走らせる必要がある。しかし、この「わざわざ行く」というプロセスそのものが、体験の価値を跳ね上げている。羊ヶ丘通を抜け、次第に民家がまばらになり、視界一面に緑が広がり始めたころに現れる三角屋根の建物。
都市のデジタルな疲労感を抱えた人々にとって、ここはただスイーツを買いに来る場所ではない。澄んだ空気を吸い込み、木々の葉擦れの音を聞きながら、自然の恵みを五感で受け止めるサンクチュアリだ。都会の洗練されたパティスリーでは決して味わえない、大地直結のリアリティがここにある。
「安い卵」から「語れる卵」へ、2026年の消費者が求めるリアリティ
ここ数年の飼料高騰や環境変化を経て、消費者の意識は劇的に変わった。「安ければ何でもいい」という画一的な価値観は後退し、誰が、どんな環境で、どのような哲学を持って育てた食材なのかという文脈(ストーリー)にお金を払う層が確実に増えている。
コッコ テラスが提示しているのは、単なるノスタルジーではない。持続可能な農法と、確固たる品質へのプライドが結実した、極めてモダンな食のあり方だ。1個数百円のスイーツを通して、人々は生産者と自然のサイクルに直接アクセスしている。その手応えこそが、リピーターを絶え間なく生み出す最大のエンジンになっているのだ。
売り切れ御免のショーケース、確実に手に入れるための賢い歩き方
最後に、森のファームショップへ足を運ぶ旅人へ向けた現実的なアドバイスを記しておきたい。お目当ての商品を確実に手に入れたいのであれば、午前中の到着が鉄則だ。特に週末は昼過ぎにはエッグタルトが品薄になり、夕方前には冷蔵ケースがほぼ空っぽになることも珍しくない。
店内のカフェスペースで焼き立てを1つ味わい、残りはテイクアウトして自宅のトースターで軽くリベイクする。熱を入れることでパイのクリスピー感が蘇り、部屋中に満ちる甘いバターの香りが、有明の静寂な森の記憶を鮮やかに呼び戻してくれるはずだ。 (出典: コッコ テラス(Yahoo!ニュース))